~これはツノボソオオクワガタです~
ケースの中で荒ぶるクワガタ。その溢れる野生に、
自由な世界で思いっきり生きて欲しい!と心を動かされる人も多いでしょう。
ですが、ちょっと待ってください。逃がさないで。
それが日本のクワガタであっても、逃がすと自然の多様性を脅かす可能性があります。
今回は採集・飼育、共に容易なヒラタクワガタのDNAにフォーカスしたいと思います。
ヒラタクワガタの種類、亜種とDNAの関係は?
北海道を除く全国に生息しているヒラタクワガタ。樹液や灯火に集まり採集も簡単です。
そして丈夫で飼育しやすいのも特徴と言えましょう。
最も親しまれているクワガタムシの一つですが、
地域によって個体差があることはあまり知られていないようです。
その多様性は、彼らのミトコンドリアDNAを調べると明らかになります。
九州~山口県に多いタイプと広島県以東でよく見られるタイプ。大きく2タイプに分けられます。
今回は前者を九州タイプ、後者を本土タイプと呼びたいと思います。
九州タイプは、その遺伝子の特徴が対馬に生息するヒラタクワガタの亜種、
ツシマヒラタクワガタに極めてよく似ています。このことから九州タイプのヒラタクワガタは、
氷河期に、その当時は地続きになっていた朝鮮半島から、陸路をつかって本土にやってきたと考えられています。
本土タイプはその遺伝子パターンが、台湾や南西諸島の仲間と非常によくにています。
こちらは海を渡って本土に到達したのでしょう。
祖先のクワガタは、幼虫から蛹の間に生活の場とする朽木ごと海に流されたのだ。そう考えられています。
九州タイプと本州タイプのヒラタクワガタ。そしてこれらがオーバーラップしている地域では
様々な中間タイプが生まれており、ヒラタクワガタの多様性を作り出しています。
オオクワガタのDNAには地域差がない!
なるほど、同じ日本産でも放虫すると多様性を損なうかもしれません。
しかし変ですね。両タイプともかなり昔から日本にいるのに、
どうして完璧には混ざることがなく、その特徴を残しているのでしょう。
そして、その特徴はこのまま維持されていくのでしょうか。
この疑問を解決するには、最も有名であろうクワガタムシ、
オオクワガタがヒントになるかもしれません。
オオクワガタのミトコンドリアDNAには地域差が殆どありません。
そして、ヒラタクワガタに比べ、寒冷な気候に強いという特徴があります。
寒さに強いオオクワガタは、山を越えて移動することができ、
遺伝子の違いをなくしていったのでは?と考えられています。
それに対してヒラタクワガタはこれができません。生息域が山によって分断されているため、
遺伝子的特徴が守られたのだと言われています。
ところが現在、地球温暖化によって、ヒラタクワガタの活動エリアが拡大しています。
地域差が失われつつある中、放虫の危険性は増していると言えるでしょう。
まとめ
~スマトラヒラタクワガタです~
採集も飼育も簡単で、とてもポピュラーなクワガタムシ、
ヒラタクワガタ。そのDNAを辿れば二つのグループが浮かび上がります。
お子様と虫捕りにでかけ、“こいつは海を渡って日本にきたんだよ~”とか、
これからも教えてあげられたらいい感じじゃないですか。そのクワガタ、逃がさないでおきませんか??