鳥には二つの種類の鳴き声がある!
それは『さえずり/bird song』と『地鳴き/bird call』です。鳥はこの二種類の鳴き方を使い分けています。
具体的には?
『さえずり』とは繁殖期に専用で使っている鳴き方であり、『地鳴き』とはそれ以外に使う鳴き方です。
『さえずり(bird song)』とは?
オスの鳥が繁殖期に用いる複雑で甘美な鳴き声……『歌』ですね。
我々にとって最も理解しやすい『さえずり』は、やはりウグイスのものでしょうか?
ホーホケキョ!
四月に聞こえるあの鳴き方です!ウグイスの繁殖期は四月ということが分かりますね。
ウグイスのオスは、あの『さえずり』を二つの目的のために使用しています。
『さえずり』をする理由の一つは、メスに対しての『求愛』のため。
もう一つは、自分の『縄張り』を他のオスに主張するためです。
求愛のための『さえずり/歌』。
これはイメージしやすいですよね!オスがメスを誘っているわけです。
ちなみに、より複雑な歌になっているほど、メスを誘う効果も高くなります。
だから、練習のしがいがあるわけで、若い個体は毎日たくさん繰り返して鳴き続けているのですね!
『さえずり』の出来の良さが、モテるオスの秘訣!
どうして、いい『さえずり』が出来るとモテるのでしょうか?
鳥の脳には、『さえずり』を聞くと活性化する神経のネットワークが存在しています。
『さえずり』を聞くと、メスの脳は活性化し、つがいを形成する気が起こりやすくなる……というわけです。
しかし、『さえずり』を長く聞いていくと脳の活性が下がっていきます。
音に対して慣れが生じ、あきてしまうようです。
複雑な『さえずり』なら?……あきにくいかもしれません。
より長く歌を聞いてもらうことも、つがいの形成に有利となるようです。
『さえずり』のもう一つの目的は、縄張りを主張すること。
広い縄張りを有していれば、それだけ強く優秀なオスだと言えるでしょう。
餌場や巣作りに適した場所の数も、縄張りの広さに比例しやすい。
しかし、質の良い土地は常にライバルである他のオスたちからも狙われています。
それゆえ、縄張りを維持するためには、他のオスに対して「ここはオレのものだ!」と主張することが肝心です。
油断してると、取られてしまいますからね!『さえずり』には、そんなメッセージも込められています。
縄張りを主張する目的は、ライバルの排除!
他のオスを威嚇することには、縄張りを守るだけでなく、もう一つ大事な役割があります。
意外なことに思われるかもしれませんが、鳥はつがいを形成した後も、つがい以外の異性と交尾することは珍しくありません。
鳥の巣にある卵の幾つかは、つがいのオス以外の遺伝子を受け継いでいる場合がある。
種によれば、巣の卵の過半数はあらぬ行為により受精した卵だったりします……。
7個の中の4個はつがいのオスの遺伝子を引き継いでいないケースもあるわけです。
そんな悲しい事情もありますから、他のオスに「近寄るな!」というメッセージを送ることは、
より多く自分の遺伝子を残すためには必要な行動となるわけです。
『さえずり』とはメスを誘い、オスを威嚇するための歌である!
平たく言えば、そうなります。
全ては自分の遺伝子をより多く残すための行動であり、
だからこそ、『さえずり』は繁殖期にのみ用いられているのです。
なお、一部の例外を除き、基本的にオスしか『さえずり』を使うことがありません。
オスしか歌わないのは、何故なのでしょうか……?
『例外』を見てみると、その理由が分かってくるかもしれません。
メスの歌い手!?
メスで『さえずり』を使う鳥には、ルリオーストラリアムシクイがいます。
しかし、『さえずり』を多用するメスのルリオーストラリアムシクイほど、自分たちの巣が襲われてしまい、卵やヒナが捕食されてしまう……そんな研究結果が出ています。
『さえずり』は広範囲に聞こえる音ですし、目立ちます。
もしも、巣にいながら卵を温めているメスが使えば?あるいは、巣の近くでメスが使えば?
巣の位置を捕食動物に伝えることになってしまうわけです。
メスの『さえずり』はリスクが高い?
ちなみに、ルリオーストラリアムシクイのオスでは、『さえずり』の頻度と、巣に対する襲撃の頻度に関連性は見つかりません。
いくら鳴いても、オスは捕食者に巣の情報を与えていないのです。
縄張りを見張るために、より広範囲を移動しているわけですから、捕食動物に巣を特定されにくいのかもしれません。
あるいは、ただでさえオスが鳴くのに、メスまで鳴いてしまうことで、捕食者に情報を多く与えてしまっているのかもしれない。
なんであれ、メスが巣の近くで鳴く、あるいは巣にいながら鳴くこと、もしくは巣に誘うようにして鳴いてしまうことは、かなりリスキーです。
狡猾な捕食者たちにとって、全ての音は獲物を探すための情報になる。
音を立てることは、そもそも野生においては不利なことにつながる場合が多いですからね。
鳴かないで済むなら、鳴かない方が良いのです。
多くの鳥のメスたちが歌わないのは、それがリスクでしかないからなのでしょう。
長い進化の果てに、多くの種の鳥たちのメスが、目立つ『さえずり』を使わないことは、捕食者から身を守るためには当然の結果と言えます。
その行動を取る種には、淘汰圧の審判が下され、消滅してしまったのかもしれません。自然界では、目立つ行為を取るべきではないのです。
……それでは何故、今日でも例外が存在しているのでしょうか?
これにも理由や背景は存在しています。
ルリオーストラリアムシクイのメスが鳴く理由。
端的に言えば、複数のオスとの子孫を残すためです。
人間の倫理観としては少し残念な気持ちになるかもしれません。
ですが、その行為にも生物学的なメリットが存在しています。
より多くのオスと交尾することで、遺伝子の多様性を獲得することが出来ます。
どういうことか?
もしも、自分のヒナが夫の遺伝子ばかりを継承していると、夫の遺伝子が持つ弱点により、全滅するかもしれません。
たとえば、夫の遺伝子に特定のウイルスに対しての弱さがあったとすれば?
そのウイルスがまん延した時、自分の子孫が全滅する可能性があります。
そういう破滅を回避するというメリットが、遺伝子の多様性を確保することは、滅びを遠ざけてくれるのです。
そして、ルリオーストラリアムシクイの場合、巣を襲うのは自分たちよりも大型の鳥類か、
『外来種』であるアカギツネ、ネコ、クマネズミなどです。
つまり、人間の関与がなければ、オーストラリアにおいては、
ルリオーストラリアムシクイのメスが『さえずり』を使うことで発生する被害も、今よりずっと少なかったのかもしれません。
少なくとも、地上を徘徊する『外来種』に襲われることは無かったのですから。
オーストラリアという環境は、彼女たちの行動を許容して来たわけです。
『さえずり』の発達には、地域で差がある。
鳥の一部には『さえずり』に対する学習機能を有している種が存在します。
それらを持つ種においては、経験によりその鳴き声を変えていくことが出来るわけです。
ウグイスもそんな種の一つですね。
300年と少し前、現在の東京都のある地域において、興味深い出来事がありました。
京都出身の皇族である公弁法親王が『江戸のウグイスは訛っている』と言い出して、
京都から、ウグイスを3500羽ほど取り寄せ、放ちます。
その結果、この土地のウグイスたちの鳴き声が良くなり、『鶯谷』と名付けられるほどのウグイスの名所となったのです……。
さて。このケースとは逆に、ハワイへ日本から持ち込まれたウグイスの鳴き声は、
日本のウグイスよりも単純な構造になっています。
鶯谷のように、故意に個体数を増やし、繁殖のための競争が激化したりすると、ウグイスは『さえずり』を強化して行きますが、競争がそれほどでもなければ、怠けるわけですね。
そもそも大声で複雑な『さえずり』を何度も鳴くことは疲れるわけです。それに上記した通り、捕食者に狙われやすくなるデメリットも存在しています。
もしも、少ない宣伝で効果があるなら?ちょっと鳴けば、つがいを形成できるなら?……コストをそこには割かない。
鳥は本当に合理的な動物だと思います。
……なんだか、ハワイにいるウグイスのオスは、気楽な日々を過ごしていそうですね。
『地鳴き/bird call』って?
今度はもう一つの鳴き方、『地鳴き』についてです。
平たく言えば、『さえずり/繁殖用の鳴き声』以外の鳴き声ですね。
これらは同種の仲間とのコミュニケーションに使います。
敵が来たぞと知らせる警戒の鳴き声、あるいは、群れから離れて迷子になったから、
皆どこにいるんだ!と叫んでみたり、餌をくれとねだるヒナのわめきとか……。
一音節から成る、社会的な意味を持つ信号的な鳴き声ですね。
カラスが一斉にカーカー鳴いたりするのは『地鳴き』です。
あれを行うことで、敵を威嚇したり、仲間に危険を知らせたりします。
つまり、『地鳴き』というのは、仲間に対しての一般的な行動に対する情報伝達なわけですね。
業務連絡だとか、110番通報、119番への電話……人間で言えば、そんなところでしょうか?
『地鳴き』は本能由来?
ヒナでも『地鳴き』を使い、親鳥に餌をねだるという事実があります。つまり、先天的に獲得済みの信号なようですね。
『地鳴き』は生まれもった能力であり、『さえずり/歌』と異なって練習しないでも使えるのではないか?
そもそも一音節で作られているため、練習の余地など無いのでは?
……といった説もある一方。
例外もあるようです。
キンカチョウが群れの仲間からはぐれてしまった時に発する『地鳴き』……『ディスタンス・コール』については、オスとメスで差があります。
キンカチョウのオスは、オスの成鳥のディスタンス・コールを聞かなければ、成鳥になっても、その鳴き方が正確に鳴けないという研究結果があるんです。
耳で聞いて学ぶ必要があるわけですね。
このように、学習に依存する例外的な『地鳴き』もあるものの、ほとんどの場合、『地鳴き』は本能的なものである……その認識をしていれば問題はないかもしれません。
小鳥たちが大きな声で鳴けるのは何故?
小鳥は小さいですが、とても大きな声で鳴けますよね。
それって不思議じゃありませんか?ウグイスなんて、16センチしかないんですよ?
そもそも音となる呼気(吐き出す息のこと)の容積が、あまりに少なすぎる。
小型で、それにともない呼気の排出量もわずかなウグイス……
それが、何故、あれだけ大きく響く『さえずり』を発生させられるのか?
鳴くための仕組み、その名は『鳴管』!
人間は発声するとき、声帯という喉の奥の部分を使って声を作っています(正確には、舌も唇も使いますけどね)。
鳥の場合は『鳴管』という場所を使って音を生み出しています。
人間で言えば声帯にあたり、ここを通り抜ける空気のおかげで鳴くことが出来ますが、
ここで空気が音になる効率がとても高い。
人間の声帯とは異なり、喉ではなく、それよりも深い場所……肺の出口部分に鳴管は存在します。
肺から勢いよく出てきたばかりの呼気は、鳴菅により、ほとんどロスすることなく音へと変換される。そういう仕組みですね。
サッカーの審判などが吹いてる小さな笛がそうであるように、呼気の勢いは甲高い音を作るのに必要なのです。
この鳴管で作り上げた音を、頭部にある鼓室で反響させることで、あれほど大きな鳴き声を生み出しているんです!
小鳥は肺から出たばかりの勢いのある呼気で鳴菅を揺らし、口の中の鼓室で音を大きくして外部へ発信している。
楽器のような構造をしていますね。使いこなすために練習が要るのも分からなくありません。
まとめ。
『さえずり』はメスを誘い、オスを威嚇する鳴き声である。
『さえずり』の完成度は環境に応じ、練習で変わる。
鳥の繁殖は遺伝子の多様性を確保することにつながる。
『地鳴き』は先天的に獲得している。
多くの『地鳴き』に練習は必要ない。
小鳥が大きな声で鳴けるのは、鳴菅のおかげ。
鳥は合理的なアニマルである。
次回もASAPアニマルニュースをお楽しみに!